はじめに:なぜ「トーン&マナー」がブランドの印象を決めるのか
あなたは、同じ企業のSNS投稿やWebサイトを見て「なんだか印象がバラバラだな」と感じたことはありませんか?
それは、ブランドのトーン&マナー(Tone & Manner)が定まっていないことが原因かもしれません。
たとえば、SNSではフレンドリーなのに採用ページでは堅すぎる。
広告では「挑戦的」なのに、コーポレートサイトでは「慎重」な印象――。
こうした一貫性のなさは、ユーザーの信頼を損ねる要因になります。
本記事では、初心者でも理解できるように、ブランドトーン&マナーの基本概念から、設計の手順、実践事例、社内への浸透方法までをわかりやすく解説します。
ブランドトーン&マナーとは?基本の考え方
まず「トーン」と「マナー」。
これは似て非なるものです。
その違いについてみていきましょう。
トーン(Tone)とは
「トーン」とは、ブランドが発する声の調子・雰囲気のことです。
たとえば、人間が「柔らかく話す」「元気に話す」といった個性を持つように、ブランドにも“話し方”のスタイルがあります。
例:
- スターバックス → 温かく、親しみのあるトーン
- Apple → シンプルで自信に満ちたトーン
- 無印良品 → 静かで落ち着きのあるトーン
つまりトーンとは、「ブランドがどんな人格を持って話しているか」を定義するものです。
【H3】マナー(Manner)とは
「マナー」は、トーンをどのように表現するかのルールです。
たとえば、フォントや色使い、写真の構図、言葉遣いなど、トーンを実際に形にするガイドラインを指します。
例:
- トーン=「親しみやすい」
- マナー=「柔らかいフォント」「手書き風アイコン」「語尾は『〜ですね』で統一」
このように、トーンが「ブランドの声」、マナーが「その声の出し方」と考えると理解しやすいでしょう。
なぜ一貫したトーン&マナーが必要なのか
現代のブランドにおいて、このトーン&マナーをしっかりと規定しておくことは必要不可欠と言えます。
様々な情報が飛び交う現代では、顧客はブランドに対するイメージを瞬時に、それでいて敏感に判断します。
その際、発信する言葉の選び方やビジュアル、姿勢が統一されていないとブランドに対する不信感を持たれる危険性があります。
一方、トーン&マナーが規定されているブランドの世界観には一貫性があります。
これによりどの媒体でも「そのブランドらしい」情報や体験を発信することができるため、顧客はブランドに対する信頼と安心を得ることができます。
トーン&マナー設計の5ステップ
① ブランドの人格(パーソナリティ)を明確にする
まずは、「ブランドを人に例えるとどんな性格か?」を考えることから始めます。
この工程を曖昧にすると、後のトーン設計がブレてしまいます。
以下のような問いを使って整理すると効果的です。
- 私たちはどんな印象を与えたいか?
- 顧客にどう思われたいか?
- 他社と違う“らしさ”は何か?
例:
- 「挑戦的で前向きなベンチャー企業」→ トーン:エネルギッシュ、マナー:明快な配色・短文中心
- 「信頼と誠実さを重んじる保険会社」→ トーン:落ち着いた誠実さ、マナー:柔らかい語調・上品な余白
② ペルソナ(想定顧客)を設定する
ブランドの人格が決まったら、次に「誰に向けて話すのか」を明確にします。
トーン&マナーは、話し相手によって自然に変わるものだからです。
たとえば:
- 20代の学生向け → カジュアルでフレンドリーな表現
- 経営者向け → 簡潔でロジカルな言葉づかい
- ファミリー層向け → 温かく安心感のある言葉
ターゲットの価値観やSNS利用傾向を踏まえたうえで、最適な表現トーンを選定しましょう。
③ ブランドボイス(Tone of Voice)を定義する
ブランドボイスとは、「ブランドがどんな声で話すか」を具体化したものです。
以下のように4軸で整理すると分かりやすくなります。
軸 | 例1(親しみ型) | 例2(挑戦型) |
---|---|---|
感情の強さ | 穏やかで落ち着いた | 力強く情熱的 |
語彙の特徴 | やさしい言葉、共感語 | 行動を促す言葉 |
文体 | です・ます調 | 常体で断定的 |
表現スピード | ゆっくり・丁寧 | 短くテンポ良く |
このようにトーンを数値化・言語化しておくと、外部ライターやSNS担当者も迷わず使えます。
④ マナー(ビジュアル・言葉遣い)をルール化する
トーンを決めたら、それを実際の表現ルールに落とし込む段階です。
以下のようなカテゴリに分けて整理しましょう。
▪️言語表現ルール
- 語尾は「です・ます」で統一
- 感嘆符「!」は1文に1つまで
- 漢字よりもひらがなを優先して柔らかさを出す
- 「私たち」「お客様」など、主語・呼称を統一
▪️ビジュアルルール
- メインカラー・アクセントカラーを固定
- 画像トーン(明るさ・被写体の距離感)を定義
- フォントサイズ・行間を統一
- SNS投稿では1枚目にロゴを配置するなど、構図をルール化
これらをドキュメント化しておくことで、制作担当が変わってもブランドイメージを守れます。
⑤ 実践&検証:実際の発信でトーンを磨く
一旦ガイドラインを整備しても、最初から完璧になることはありません。
実際にSNSやブログなどで発信し、ユーザーの反応を見ながら常に改善を繰り返して調整していくことが重要です。
チェックすべき指標例:
- SNS投稿のエンゲージ率(いいね・保存・コメント)
- サイト滞在時間・離脱率
- ブランドに関する口コミの変化
- 社内メンバーの運用理解度
小さく試して改善を重ねることで、ブランドの声が現場に馴染んでいきます。
成功事例:トーン&マナーで“らしさ”を確立した企業
事例①:無印良品 ― 「語らない」トーンで信頼を築く

無印良品は、過度な装飾やコピーを使わず、静かで誠実なトーンでブランドを確立しています。
「これでいい」ではなく「これがいい」という簡潔な言葉。
余白のあるデザインと柔らかいナレーション。
これらはすべて、無印が一貫して掲げる“控えめで本質的”というトーン&マナーに基づいています。
事例②:note ― 共感と温かみを生むトーン設計

メディアプラットフォーム「note」は、ユーザーと共に育つブランドを目指し、
「やさしく語りかける」トーンで統一されています。
マナー面でも、淡い配色と手書き風のイラストを多用し、「創作者に寄り添う」ブランドイメージを体現しています。
結果として、文章を読むだけで「noteらしさ」が伝わる設計が成功しています。
社内にトーン&マナーを浸透させるコツ
1. 社員全員が“ブランドの人格”を理解する
トーン&マナーはデザイン部門だけのものではありません。
営業、採用、カスタマーサポートなど、すべての接点で一貫性を保つ必要があります。
そのために、ガイドラインだけでなく「なぜこのトーンなのか」を説明する社内研修が効果的です。
2. 成功・失敗事例を可視化する
「このSNS投稿はブランドらしい」「この広告は違う」といった比較事例を共有すると、理解が深まります。
抽象的な説明よりも、実際のビジュアルと合わせて見せるのがポイントです。
3. 定期的にアップデートする
トーン&マナーは一度決めたら終わりではありません。
社会の変化やブランド成長に合わせて“進化”させる必要があります。
年に1回程度、レビュー会を行い、現状とのズレを見直しましょう。
まとめ:トーン&マナーはブランドの人格を守るルール
ブランドトーン&マナーとは、企業やサービスの「人格」を形づくるためのルールであり、“らしさ”を伝える共通言語です。
言葉の使い方、色やフォントの選定、SNSでの発信トーン、さらには社員一人ひとりのコミュニケーションまで──それらが統一されて初めて、ブランドの世界観は一貫性を持って顧客に伝わります。
トーンの統一は信頼を生み出し、マナーの整備はブランド体験の美しさをつくる。
この二つが揃うことで、ユーザーはブランドに安心感や誠実さを感じ、「また選びたい」と思える関係が生まれます。
重要なのは、作って終わりではなく、社内全体で共有し、日々アップデートしていくこと。
ガイドラインは“管理のためのルール”ではなく、“ブランドを育てる土台”です。
トーン&マナーを通じて企業文化を浸透させることが、長期的な信頼とブランド価値の向上につながります。
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